追憶の儀式~広島の味めぐり
10月6日(日)から8日(火)にかけて広島に帰省した。
ここ数年、秋の彼岸前後に、墓参りをかねて里帰りするのが慣わしとなっている。
両親が他界して久しいが、年々歳々、お世話になった叔父叔母たちへの報恩感謝の思いは深まるばかりである。
私は青少年期、母方の祖父母や叔父叔母に一方ならぬ世話になった。
高校時代は祖父母の家から学校に通った。
家族と暮らした日々よりも、祖父母の家で過ごした想い出のほうが多いくらいだ。
そんなこともあって、叔父や叔母、従兄弟たちの顔を見に帰ることは、
自分の来し方を振り返る、ささやかな追憶の儀式となっている。
私が広島に帰ってくるのを心待ちにしてくれている、みんなの優しさ、ぬくもりが肌身に沁みる。
今回の帰省は、私には珍しく「食」が主役の感があった。
6日の昼過ぎ、西広島駅へ迎えに来てくれた従兄弟夫妻らと連れだって、地御前に向かったのは、広島県人会の縁で東京で知り合った、東急スポーツオアシスの若宮豊さんのご実家が、当地でお好み焼き屋をやっていると知ったからである。
若宮さんとは県人会の集まりで数回、お会いしたに過ぎないが、何かと親しく口をきいていただいている。
それまで郷里とのふれあいを粗末にしてきた自分は、日頃の不徳を恥じ入るばかりだが、
縁あって、久しぶりに広島のお好み焼きに舌鼓を打つことができることを嬉しく思った。
お店に顔を出すと、思いがけず当の若宮さんが出迎えてくれた。
何でも所用があったので帰ってきたということだったが、その日のうちに東京へトンボ帰りすると聞き、かえって気を遣わせたのではないかと、私は恐縮するばかりだった。
お店に滞在したのは一時間足らずだったが、「お代は結構です」とご馳走にあずかったばかりか、手土産まで頂戴したのには、お礼の言葉もなかった。こぎれいなお店の雰囲気と、奥さんの温かい人柄がしみこんだお好み焼きの味を、私は忘れることはないだろう。
「わかみや」さんのお好み焼き(広島・地御前)
若宮さんを辞したあと、墓参りのはしごをした。
両親が眠る吉本家に続いて、叔母と従兄弟が眠るM家、母方の里であるS家、そして父方の本家と、私の人生と関わりを持つ四家に帰広の挨拶をし、墓前に手を合わせた。
予報では、広島は雨が降りそうだとのことだったが、曇り空で、暑くもなく、滞在中、一度も傘を使わずにすんだのは何よりだった。
その夜は、従兄弟の家で一年ぶりの再会を祝した。叔母、叔父、従兄弟など、十数人による宴会である。
最年長の叔母は八十を三つ四つ過ぎ、叔父もまた来年が傘寿になるが、二人ともシャキッとして老けた風はみじんもない。
もともと、母方はみんな若ぶりで、私もどうやらその血を引いているみたいで、「人間、見た目は大事じゃけえのう」と酒のピッチは一段と進んだ。
私は日本酒一辺倒で、二次会として隣の叔父の家に移動してからも、ひたすら飲み続けた。何でも日本酒が底をつき、私のためにわざわざ買いに行ってくれたのには、何をどう詫びたらいいものか。半升近くを私一人で飲み干したらしかった。
しかし、おいしい酒だったので、翌日まで尾を引かず、午前中に宮島の弥山の登頂を目指した。
しかし、弥山登山は難行苦行であった。ケーブルカーで山頂近くまで上れるし、そうたいしたことはないだろうを高をくくっていたが、頂上までは一度下ってから、また登らないといけない。山頂までは片道三十分、往復一時間くらいだが、道幅は狭く、しかも石段続きで、階段の幅も狭く、歩きにくいことこの上もない。日差しがないのに、汗びっしょりになった。革靴で向かった私には天罰が下ったふうで、不心得者のそしりを免れそうにない。
途中、行き交う人のほとんどが外国人だった。
彼らのほとんどが半ズボンにTシャツ、スニーカーというスタイルで、足早に脇を通りすぎていくのを見ると、体力の差を痛感させられた。しかし、じきに彼らの多くが途中休憩し、肩で大きく息をしていたところをみると、予想以上にきついルートと言えそうだ。実際、この春、高尾山の小仏峠に登ったときよりも、時間は短いのにずいぶん険しく感じられた。
二日目の夜は、従兄弟がやっている季節料理「しおむら」(中区薬研堀一丁目)の料理を堪能した。
サンマの刺身、アスパラげそバター、すじ肉の大根煮、シロの天ぷら……と、私好みの料理が次々と出され、まさに至福の時間であった。
ただ一つ残念だったのは、この夜は日本酒を飲む気にはならず、ハイボールで通したこと。
常日頃、、日本料理には日本酒が一番、と言ってきた身としては、いささか締まりのない酒の席となった。
しかし、私には心身ともにリフレッシュできた広島味覚紀行ではあった
季節料理「しおむら」(広島・薬研堀)の
アスパラげそバター
※屋号「しおむら」の書は、写真家の故秋山庄太郎先生。私が無理を言って揮毫していただいた。
2019/10/10 11:30 | COMMENT(0) | TRACKBACK(0)
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